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犬猫のてんかんの症状、原因、診断、治療法について解説

前橋市・高崎市・伊勢崎市・藤岡市・安中市・渋川市のみなさん、こんにちは!
前橋市の桑原動物病院です。今回は犬猫のてんかんの原因や症状、診断、治療などについて獣医師が詳しく解説していきます。

 

【疫学】

てんかんは,おそらく人類の起源とともに知られてきた最も古い脳の病気の一つであり,発達した大脳をもつすべての動物種で起こりうる慢性的な機能障害でもあります.人での発生率は約1%であり,犬では約0.6〜1.0%,猫では0.04〜0.5%の有病率と推定されています.特に特定の犬種では,2〜5%を越える場合もあります.

 

【定義】

「てんかん」は「慢性の脳の病気で,大脳の神経細胞が過剰に興奮することによって,脳由来の発作が反復性(2回以上)に起こるもの」と定義されています.国際獣医てんかん特別委員会(International Veterinary Epilepsy Task Force: IVETF)では,「24時間以上あけて少なくとも2回以上の非誘発性てんかん発作が認められる場合」と定義されています.

「てんかん発作」とは,脳の神経細胞の活動が異常に増加あるいは同期することによる症状です.これに対して,代謝性・中毒性疾患による急性の脳への侵襲に対する反応としての発作はてんかん発作ではなく,「反応性発作」と呼びます.

 

【てんかんの分類】

犬猫のてんかんは,その原因(病因)によって,脳に異常を認めない「特発性てんかん」と脳に異常を認める「構造的てんかん」に大きく分類されます.

1.「特発性てんかん」には,遺伝性,おそらく遺伝性,原因不明の3つのサブカテゴリーがあります.

1.1:遺伝性てんかん
  原因遺伝子が同定された単一遺伝性てんかん犬は,ラゴット・ロマニョーロ,ローデシアン・リッジバックなどで報告されておりますが,いずれも日本では馴染みのない犬種となります.
1.2:おそらく遺伝性てんかん
  原因・関連遺伝子はまだ同定されていないが,家系解析や同一品種内で2%を越える高い発生率あるいは疫学調査により遺伝的影響が支持されるものを指します.代表的犬種としては,ゴールデン・レトリーバー,ボーダー・コリー,オーストラリアン・シェパード,バーニーズ・マウンテン・ドッグ,キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル,ダルメシアン,ジャーマン・シェパード,ビーグル,シベリアン・ハスキー,などがあります.
1.3:原因不明のてんかん

  脳のある一部に何らかの機能異常や微小な構造異常があるかもしれませんが,現在の検査技術(画像検査や血液検査)ではその原因を特定することができないものを指し,多くの犬と猫のてんかんがここに分類されます.

 

  • 構造的てんかん
    構造的てんかんの多くは,身体診察や神経学的検査において異常が認められることが多く,さらにCT/MRI検査で脳に目で見てわかるような障害や傷があります.例えば,脳炎,脳腫瘍,脳血管障害,頭部外傷や水頭症などがあります.つまり,てんかんの診断としては,構造的てんかんとなりますが,通常の診断名としては,「脳腫瘍」,「脳炎」や「水頭症」などと呼ぶことの方が多いです.

構造的てんかんでは,初発発作の年齢が6カ月未満あるいは7歳以上のことが多く,さらに初発発作が単発(単回)ではなく,群発発作や発作重積を呈することもあります.

 

【てんかん発作の分類】

てんかん発作は,焦点性発作と全般てんかん発作に大別されます.

1.焦点性てんかん発作

 焦点性てんかん発作は,脳の一部から過剰放電が始まり,その領域が担う機能を反映した徴候が出現します.発作型としては,身体の局所に限局したけいれんを症状とする運動性発作や瞳孔散大,流涎,嘔吐,腹部痛などを引き起こす自律神経発作,不安,恐怖,激怒,不動化などの一定の異常行動を特徴とする行動発作があります.

焦点性発作では,てんかん性の異常放電が両側大脳半球まで広がり最終的に全般てんかん発作へ移行することがあり,この場合は,「焦点性てんかん発作から全般てんかん発作への進展」と呼ばれます.

2.全般てんかん発作

 全般てんかん発作は,発作の最初から両側大脳半球の広いネットワーク内のどこかで過剰興奮が起こり,ネットワーク全体が急速に巻き込まれるものを言います.ミオクロニー発作を除いて,多くの場合は発作の起始から意識障害を伴い,流涎や尿失禁および/あるいは便失禁もまたしばしば生じます.

全般発作の代表的な発作型は,強直間代性発作,強直性発作や間代性発作,ミオクロニー発作および非けいれん性の脱力発作があります.

3.群発発作

 24時間以内に2回以上の独立した発作が生じるものであり,発作と発作の間には明確な発作間欠期を有します.

4.てんかん重積状態

 1回の発作が5分以上持続するか,2回以上の発作が完全な意識回復を伴わずに連続するものをてんかん重積状態と定義します.見逃されやすいてんかん重積状態として,焦点性発作や,けいれんを伴わない流涎などの自律神経徴候,顔面ミオクローヌスのみが長時間持続すればそれもまた重積状態であるので注意が必要です.

【てんかんの診断】

1)問診

てんかんの診断では,まずはその発作がてんかん発作か他の発作性疾患であるのかを鑑別します.動物のご家族の方からの主訴の多くは,けいれん,発作や震えなどいろいろな表現をされますが,てんかんと診断するには,通常は2回以上のてんかん発作の確認が必要となります.ご家族の方にスマートフォンなどで動画を撮影してもらうことで,てんかん以外の失神,前庭障害,振戦や発作性ジスキネジアといった非てんかん性の発作性エピソードとの判別も可能になることもあります.その次に,てんかん発作であるならばその基礎原因の同定を行います.

 

2)てんかん発作の原因診断

 IVETFが推奨する診断プロセスをもとに,てんかんの診断を実施していきます.まずは,頭蓋外要因(中毒,腎臓病,肝臓病,低血糖など)の反応性発作を除外して,次に構造的てんかん(先天性脳奇形,脳炎,脳梗塞,脳腫瘍など)を除外した後に特発性てんかんが診断されます.IVETFが提唱した3段階の信頼レベルに分けた犬の特発性てんかんの診断基準を用いて,反応性発作および構造的てんかんを除外していくことになります.

「特発性てんかんの診断基準」

a)信頼レベル第Ⅰ段階

 少なくとも24時間以上の間隔をおいて2回以上の非誘発性てんかん発作が認められ,初発発作が6カ月〜6歳齢であり,発作間欠期の身体診察と神経学的検査に特異所見を認めず,血液検査や尿検査に異常を認めないこと.特発性てんかんの家族歴があれば信頼度が高くなります.

*血液や尿検査に異常が認められれば,反応性発作を疑います.特発性てんかんの基準に当てはまらず,代謝性あるいは中毒性疾患による反応性発作が除外され,神経学的検査に異常を呈していれば構造的てんかんの可能性が高くなります.

b)信頼レベル第Ⅱ段階

 第Ⅰ段階の項目に加え,食前・食後の胆汁酸(TBA)に異常を認めず,脳MRI検査およびCSF検査に異常が認められないことを証明するため検査をしていきます.

*ここでは特発性てんかんの診断と構造的てんかんの診断を実施することができます.つまり,MRIおよびCSF検査にて異常が認められれば構造的てんかんと診断します.注意点としては,発作直後あるいは重篤な発作後にMRI検査を行った場合,梨状葉,側頭葉,嗅球や前頭葉にMR信号値の変化が認められることがあります.てんかん発作に関連した画像所見が認められた場合には,16週間の発作がない期間後に再検査を行うことが推奨されます.

c)信頼レベル第Ⅲ段階

 信頼度としては最高レベルであり,第Ⅰおよび第Ⅱ段落の項目に加え,発作時あるいは発作間欠期の脳波異常の同定を行います.

*脳波検査では,特発性てんかんの診断をより確実に評価する目的があります.脳波検査にて,棘波,鋭波などの異常なてんかん性波形が検出されればてんかんと診断されます.一方,動物によっては1回の脳波検査だけでは必ずしも脳波異常が出現するわけではないため,異常なてんかん性波形が検出されなかったとしてもてんかんではないと言いきれません.

 

「画像検査」

1)どのような場合に脳画像検査が推奨されるのか?

 てんかんの画像診断には,頭部MRI検査,頭部CT検査,脳波検査があります.CTやMRI検査は形態学的な異常を診断するものであり,脳波検査は機能的な異常を検出するのに役立ちます.各種臨床検査の結果,頭蓋内に器質的病変が疑われる場合には,MRI and/or CT検査が推奨されます.特に構造的てんかんの原因を検索するにあたってはCTよりもMRIを用いた評価が望ましいです.

MRI検査が推奨される場合のポイントは,

  • 初発発作年齢が6カ月未満あるいは7歳以上の症例
  • 発作間欠期の神経学的検査において頭蓋内病変が示唆される症例
  • 初発発作がてんかん重積状態あるいは群発発作を示す症例
  • 特発性てんかんと臨床診断したが,単剤での抗てんかん薬療法で最大許容量まで使用してもコントロール不良な難治な症例

 

「治療」

 てんかんの治療は薬物療法が中心となり,その目標は抗てんかん薬(antiseizure medication: ASM)の副作用を最小限にして,発作を最大限に抑制し,動物と家族の生活の質の向上となります.犬のてんかん治療に関しては,2015年にIVETFおよび2016年に米国獣医内科学会(ACVIM)から発表された論文に,治療指針が記載されています.以下の基準に当てはまる場合に,抗てんかん薬による治療が推奨されております.

 

  • 治療開始の原則
  • 6カ月以内に2回以上のてんかん発作がある場合
  • てんかん重積あるいは群発発作がある場合
  • 発作徴候(例:攻撃性の亢進や視覚消失)が重篤または24時間以上持続する場合
  • てんかん発作の頻度の増加,持続時間の延長and/or発作の重篤度が3回の発作間欠期の間に進行がみられる場合
  • 構造的てんかんが明らかな場合

 

 

  • 抗てんかん薬の種類・選択

 犬のてんかんの第1選択薬は,フェノバルビタール,臭化カリウム,ゾニサミドのいずれかとなります.これらの薬の中から動物の個々の発作に合わせて単剤治療を開始します.本邦においてはゾニサミドが第1選択薬として使用されることが多いです.その理由としては,ゾニサミドは,日本で開発された抗てんかん薬であり,犬用抗てんかん薬として承認されており,他の抗てんかん薬と比較して副作用も少なく,安価であることが挙げられます.欧米ではフェノバルビタール,臭化カリウム,イメピトインのいずれかが第1選択薬として使用されています.この違いは,各国の法的規制のため利用可能な薬剤に制限があること,薬の価格や情報も地域ごとに異なるため現状に見合った抗てんかん薬を選択しています.

 

3)単剤療法と多剤併用療法について

 第1選択薬が無効であれば次の薬剤(他の第1選択薬)を併用することになります.ゾニサミドあるいはフェノバルビタールの単剤療法で十分な効果が得られない場合には,臭化カリウム,あるいは第2選択薬としてレベチラセタムなどが用いられます.追加併用剤の選択に関する情報は少ないため,厳密な順列使用ではなく発作型やてんかん診断をもとに個別に勘案して行う必要があります.また,追加併用薬を使用し,効果が有効ならば前薬は漸減・中止し,できるだけ単剤治療に努めるのが基本となります.理由としては,多剤併用では薬物相互作用をきたす可能性があるからですが,実際のところ発作抑制が困難な症例では多剤併用とならざるをえないことも多くあります.その際には作用機序の異なる薬剤の選択や相互作用を考慮しての選択など合理的な多剤併用療法が望まれております.その他の利用可能な抗てんかん薬として,IVETFでは,ガバペンチン,プレガバリン,トピラマートなどが存在しておりますが,これらの抗てんかん薬の有効性に関するエビデンスは不十分であると報告されております.そのため,これらの抗てんかん薬を使用する際には,推奨されている抗てんかん薬を用いた単剤療法あるいは多剤併用療法に効果を示さない場合に,追加治療薬としてのみ使用するのがよいです.

 

  • 難治性てんかんに対する食事療法および代替療法サプリメント
  1. 中鎖脂肪酸食

 難治性てんかん症例における食事療法として,中鎖脂肪酸(Medium-chain triglycerides; MCT)食がてんかん発作を減少させることが報告され,日本でもMCT食である犬用フードが販売されるようになりました(Purina® ProPlan® Veterinary Diets NeuroCare).MCTは,興奮性神経伝達物質を司るグルタミン酸受容体(AMPA)を阻害し,直接的な抗発作作用を有することが示唆されております. MCT食は,発作頻度が少ないてんかん症例でも通常のメンテナンス食として給与することも可能です.今後さらなるデータの蓄積が必要ではあるものの代替療法として利用できます.また,最近ではてんかん症例のみならず,認知機能不全症候群にも有用であると報告されております.

 

  1. カンナビジオールサプリメント

 最近,人医療において小児の難治性てんかん症例にカンナビジオール(CBD)が有効であると報告されております.CBDは,大麻草から抽出される植物性カンナビノイド(化学物質群)の一種であり,その薬理作用から古代より治療に用いられてきました.大麻草には,主に向精神作用を持つΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と向精神作用を持たないCBDと呼ばれる成分が含まれております.THCは酩酊などの精神活性作用から規制の対象となっておりますが,化学的に合成されたCBDは,向精神作用を示さず,乱用の危険性もないため規制対象とされておりません.そのためCBD製剤は,その安全性と様々な疾患に対して治療効果を有することから注目されています.犬においても抗てんかん薬の代替療法としてCBD製剤が抗けいれん作用を示す可能性が高いことが報告されております.近年,日本市場でもCBD製品の流通が活発となってきておりますが,海外から輸入されているCBDサプリメントの中には違法なTHC成分も含まれていることもあるためその使用には十分注意が必要です.また,現時点では犬猫のCBDの臨床研究データも少ないため,今後さらなる大規模な無作為化盲検対照研究ならびに長期投与時におけるその有効性の評価,適切な投与量,副作用や薬物相互作用の検討が必要となります.

 

 

5)てんかん外科

特発性てんかんのうち70〜80%は抗てんかん薬によって発作を抑制することができますが,20〜30%の動物では十分な治療効果が得られず,いわゆる「難治性てんかん」へと移行します.難治性てんかんの犬猫は,複数の抗てんかん薬による多剤併用療法が必要となり,それによる副作用や生活の質(QOL)の低下のみならず,動物のご家族の方の精神面にも影響を及ぼすことがあります.

人医療領域の難治性てんかん症例では,外科手術を行うことで発作頻度の減少やQOLの改善が認められます.近年,獣医学領域においても,研究段階ではあるものの,迷走神経刺激療法,神経線維の遮断を行う遮断外科,大脳皮質の一部を切除する切除外科,深部脳刺激や低侵襲な経頭蓋磁気刺激などの神経修飾療法も行われつつあります.

 

「予後」

 日本における大規模なてんかん犬の疫学研究では,特発性てんかん(n=65)および構造的てんかん(n=35)の中央生存期間(初発発作から死亡まで)はそれぞれ10.4年と4.5年,寿命中央値はそれぞれ13.5歳と10.9歳であったと報告されております.また,てんかん犬において,発作頻度の高い個体や発作のコントロールが不良の場合には,生命予後が短く,行動変化のリスクを伴い,動物やその家族のQOLの低下にも影響することが知られています.ただし,特発性てんかんの犬では,適切な抗てんかん薬療法により発作がコントロール(3カ月に1回以下の発作頻度)されていれば,約7割の患者で予後は良好です.猫における大規模なてんかんの予後研究は行われていないため,正確な予後は不明ですが,フェノバルビタールによる単剤治療でてんかん発作のコントロールが良好な症例では,一般的な猫と同様の寿命であると考えております.一方,犬と猫の構造的てんかんではその病因や治療成績によって予後はさまざまとなります.